八ヶ岳真教寺尾根~県界尾根(2019年5月)

ゴールデンウィークはなんとか時間がとれそうだ。長いことまともな山行をお休みしていたし、歳もとったので、体力に自信はない。若者と一緒に行くと足手まといになるのは確実。単独で手頃なルート、八ヶ岳の真教寺尾根はどうだろうか。夏は一般ルートだが、積雪期は登山体系にも載っているバリエーションである。大昔二人パーティで行ったはずだが、記憶力がほぼ皆無なので全然覚えていない。5月2日登攀とした。

大阪時代に所属していた岳僚山の会の先輩Nさんが5月3日に黒戸尾根を登るため、前日早めに山梨方面に来る。下山したら、ふもとで一緒にキャンプすることにした。

5月1日夜、自宅のある埼玉を、車で出発。結構な雨。予報では真夜中には止むはず。24時前に八ヶ岳麓の美し森ロッジに到着。下の無料駐車場に車を停め、助手席で総重量2キロの羽毛シュラフに潜り込む。

朝4時半起床。寝坊した。あまり寒くない。カップうどんを食べ、5時出発。駐車場からの出口を迷ったが、傍に案内板が出ていた。目指す赤岳は、ガスに覆われて見えない。

最初はそれなりの体調だったが、一時間程歩いて最初の休憩を取ったあとから悪くなる。最近、階段を上がったり、走り込んだりすると胸が痛くなるのだが、この時もその症状がでてきた。ちょっと歩いただけで、しばらく休憩の繰り返し。おまけに平行感覚も狂ってきて、右へ左へとふらつく。こりゃだめだな。どこか切りのいいところで引き返そう。こんな時は、なんて報告するかな。体調不良による敗退でいいか。恥ずかしいな。

赤岳を望む

そのうち、雪道となる。明瞭な、アイゼンの踏み跡から、直近のものと思われる。昨日は雪降らなかったのか。ガスが去り、高度も出てきて樹林の合間から赤岳の雄姿が垣間見える。かなりの高さだ。あれを登るのはなかなかしんどい。あの頂に立っている自分が想像できない。

休んでいると、上の方から人が下りてくる。赤岳からかと思ったら、昨夜の新雪で上の方はトレースが消えていたので引き返してきたとのこと。なんで?と思うが、体調も悪いし、そこまで行ってから引き返そう。

樹林帯が尽きるところに、彼が作ったトレースの末端がある。確かにそこから先は新雪におおわれているが、その下にうっすら踏み跡がわかる。稜線は明瞭で迷うこともない。ちょっとだけ、と思って踏み入れる。新雪の下の隠れたトレースがしっかりと足をとらえる。少しだけ、行ってみよう。なんとなく体調が戻り、胸の痛みも軽くなった気がする。

赤岳山頂の右に赤岳頂上小屋が見える。十数歩進んだだけで、それが意外に近づいたように思えた。錯覚だろうが、今歩いている雪稜の先にある岩稜帯まで、行く理由はできたような気がした。

岩稜には鎖場があるはずだが、末端からは見えない。そこを直登してもやさしそうである。そのまま4~5手攀じる、と左下に鎖が見える。なんだ、と思ってトラバースしようとしたが、間に数メートルの雪壁がある。岩棚で、アイゼン、登攀具一式を装着。

地獄谷赤岳沢を挟んで南側の天狗尾根からコールが聞こえる。なかなか魅力的な岩峰ルートで、2、3パーティ登っているようだ。こちらは一人貸し切り。

最後の岩稜。左上に標識が立っている

鎖をたどって第一の岩稜帯を越える。さらに上に第2の岩稜帯が出てくる。ここも鎖があるはず、と思ったが、雪に埋もれていて見えない。左端の草付きが傾斜もゆるく、やさしそうだ。ダブルアックスで登る。草付きが尽き、右から雪に埋もれた登路がせりあがってくる。鎖がでている。さらに最後の岩稜が控えていたが、鎖が使えて問題ない。14時、権現岳から赤岳への縦走路に出る。赤岳山頂までは意外と遠く、到着は14時半。これではとても今夜の宴会に間に合いそうもない。鍋やバーベキューセットなど持ってきたというのに、これも運命と思い、深く落ち込む。

写真ではわかりにくいが、結構な急斜面の出だし

赤岳頂上小屋は閉まっていた。二人パーティが休んでいる。小屋の北側の脇から県界尾根の下降路が始まっている。出だしは雪の急傾斜。クラストしていて、蹴り込むと足はずぼりと埋まるが万一スリップした場合、止めるのはなかなか大変だ。両手アックスをいわゆるピオレ・カンヌで持ってピックを雪壁に突き刺しながら、後ろ向きで、クライムダウンする。天気は良く、今下降している右方向、すなわち南側に尾根が見える。あれが県界尾根だろう。そっちへ行きたいが、締まっているとはいえ、急な雪壁をトラバースするのは気が引ける。なるべく這松帯に沿って、斜め右へと降りる。大分下に降りて、傾斜が少々緩くなったころから、前を向いてキックステップに切り替えるが、体力も落ちており、なかなかスピードが上がらない。右に見えている尾根に入る。

単独で休憩している人に会う。県界尾根に間違いない。彼はこれから登って、ヘッドランプで一回りし、翌朝、北にある杣添尾根を降りるという。多分思い切り変なところにトレースつけたことを詫びる。「慣れてますから大丈夫です。状況により使わせてもらいます。」すでに16時半である。

はっきりしたトレースもあり安心だが、雪の状態はよくない。ズボズボと足や体がめり込む。Nさんには電話が通じた。もつ鍋、ビール、ワインを用意してくれるし、車が行けるところまで迎えに来てくれる。ありがたい。県界尾根から美し森への下降路への分岐点である小天狗には18時半。ここから下ったところまで車が入れるはず。暗くなったのでヘッドランプを点灯する。急な下降路はそのうち水平道となる。時折舗装道路が出てきて、ホッとするが、それはすぐに崩れ、再びデコボコの山道に戻る。闇の中からピーっという獣の声が聞こえる。ついてくるようで気持ち悪い。鹿が警戒したときの鳴き声らしい。

道はいつまでも続くと思われたが、ついに車の明かりがみえる。終了は20時半。全行動時間は15時間半となる。Nさんがせっかく用意してくれたビールとワインだが、とても喉を通りそうにない。体力つけなきゃ。

 

<装備について>

ハーネス、スリング、ハーケン、ロープ等の登攀具一式を持って行ったが、結局使わなかった。しかし、もしまた積雪期に行くとしたら、持っていかないわけにはいかないだろう。今回もパーティだったら、状況により何度かロープを出していたと思う。

アイスハンマーがとても役に立った。バイルより短いがダブルアックスで使うには問題がなく、かつ、軽い。

ツェルト、羽毛ジャケットをリュックに入れておいたが、もちろん使わなかった。何度もビバーグしようと思ったくらいなので、これらも、持って行かないという選択肢はない。

 

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